これからはサーキュラーエコノミーの時代になる
2019/12/17
台風が年々大型化し、甚大な被害をもたらしています。
12月になったのに台風が発生し、秋に吹くはずの木枯らしが今年は吹かなかったり。
海にプラスチックが流れ、魚や鳥がえさと間違って食べてしまう。
明らかに地球がSOSを出しているのに、このままの生活でいいはずがない。
それは誰もがわかっていること。
それでも、私たちは食べていかなければならないので、経済的な営みを止めることはできません。
しかし、いいこともあります。地球に優しい経済成長の道が示されたのです。
それが「サーキュラーエコノミー」という考えです。
この考え、これからの世界のスタンダードになりますよ。
目次
国連の世界人口推計によると、2050年、地球の人口は97億人に達する見通しです。
しかし、WWF【World Wide Fund for Nature(世界自然保護基金)】によると、
”現在の人類による消費の大きさを計算すると、地球1個分の生産量に対して、1.7個分の利用をしていることがわかります。
つまり0.7個分、使いすぎている、ということです。
この現在オーバーしている地球0.7個分の消費分は、いわば森や海などでの乱獲や、大量の二酸化炭素を排出することで、未来から「先借り」してしまっているわけです。
これは、地球が本来もっている生産力を超え、原資を食いつぶす形で、人類が消費を拡大し続けている、ということに他なりません。
現在のまま消費の圧力が大きくなり続ければ、2030年には、地球2つ分の資源が必要になる可能性も指摘されています。”
(引用・WWFジャパン)
地球の資源には限界があります。
今のままの消費だと、資源が底をつくのは明らかです。
そこで、今の生産、消費スタイルの中で、「廃棄物」とされていたものを「資源」と捉え、廃棄をゼロにし、資源を円を描くように循環させるという経済循環「サーキュラーエコノミー」という考えが出てきました。
従来の経済活動である、資源を採取し、製品を作って、廃棄するという一方通行の経済を直線的経済(リニア経済)。製品を作って、使う、そして、捨てる前にもう一度それを使って商品を作ることをリサイクル経済と言います。
この資源をリサイクルするという考えも明らかに良い慣習です。
しかし、このサーキュラーエコノミーは、再生可能な、そしてより耐久性のある素材の発見に目を向け、修復、修繕、再利用、用途変更がより簡単に行える製品を作ることで、廃棄をまず避けようということを一番に考えます。
サーキュラーエコノミーの注目されている理由は持続可能な社会環境を作るだけでなく、新たに4.5兆ドルもの利益を生み出せるといわれているからです。
(参考・『サーキュラー・エコノミー デジタル時代の成長戦略』,ピーター・レイシー, ヤコブ・ルトクヴィスト 著、 日本経済出版社)
(出典・Circular Economy Lab JAPAN)
18世紀半ばの産業革命から約260年間、人類はずっと資源を大量に調達して作る、そして売る、捨てるという一方的なビジネスモデルを続けてきました。
その間、世界の人口は7億人から72億人ほどに膨れ上がり、今後も人口増加が予測されます。
資源が底をつき、限りある資源をめぐる戦いが起き、気候変動、海洋プラスチックなど当時は考えられなかった問題を抱えた現代社会において、ようやく持続可能な新しい道を見つけました。
加えて経済効果も得られるとわかり、企業や政府に衝撃を与えたのがサーキュラーエコノミーです。
ここにいち早く目をつけたのがEUです。
2015年、欧州委員会がサーキュラーエコノミーの実現に向けた戦略「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」を採択しました。
欧州構造化基金(ESIF)から資金支援、EU加盟国からの投資を受け、2030年までの成長戦略として循環経済パッケージを発表。
・加盟国各自治体の廃棄物の65%をリサイクルする
・包装廃棄物の75%をリサイクルする
・すべての種類の埋め立て廃棄量を最大10%削減する
という数値目標を掲げており、企業にも対応が求められるようになります。
これにより、欧州企業での6,000億ユーロの節約、58万人の雇用創出が経済効果として想定されます。
(出典・経済産業省「欧州のサーキュラー・エコノミー政策について」)
また、イギリスのエリン・マッカーサー財団は、「サーキュラー・エコノミー100」という組織を立ち上げ、企業や政府、研究機関と連携し、サーキュラー・エコノミーに関する能力開発、実践の支援をしています。
ユニリーバ、グーグル、フィリップスなど世界の企業の中に、日本からはブリヂストン、三菱ケミカルホールディングスが参加しています。
サーキュラーエコノミーの発祥の地、欧州の中でも特に、行政、大企業やスタートアップが積極的に動いているのがオランダ・アムステルダムです。
2015年、アムステルダム市は、行政主導でサーキュラーエコノミーを推進し、2050年までに確立すると宣言。以来サーキュラーエコノミー移行のグローバルリーダーとして注目を集めている都市です。
(参考・Forbes Japan )
以下、2015年にアムステルダム市が宣言した『サーキュラー・エコノミー』全文訳です。
想像してみてください:
洗濯機を買う代わりに洗濯機をリースします。
新しい場所で完全に分解および再組み立てできる建物。
それ以外の場合は捨てられるはずだったコーヒーかすで育てたキノコ。
ほとんど使わない車を所有する代わりに、隣人と車を共有します。
これは、サーキュラーエコノミーが目指す世界です。
ここアムステルダムは、2050年までにサーキュラーエコノミーを実現することが目標とします。
(参考・”City of Amsterdam: Policy: Circular Economy”)
アムステルダム市は2015年に世界で初めて街としてサーキュラーエコノミーの意向調査を実施しました。
結果、サーキュラーエコノミーの実現は
「汚染を減少させる」
「雇用を増大させる」
「経済的発展を促進させる」ことがわかったのです。
そして、いくつかの明確な目標を設定しました。
2025年までに、リサイクルまたは再利用を可能にするため、すべての家庭ごみの65%を分別。
2030年までに、第一次原料資源の使用を50%削減。
2050年 完全なサーキュラーエコノミーへ移行。
アムステルダム市は新しく住宅はサーキュラーモデルで建築するというプロジェクトや、使われなくなった廃船が投棄されていた場所で、廃船を土台の建材として活用するオフィス街を造るプロジェクトを実行しています。
アムステルダムはこれまでの実績を認められ、2016年にはWorld Smart City Awardを受賞しました。
受賞にあたっては、地域で発電させている電力、化石燃料使用量の削減、廃棄物リサイクルの効率化等の、アムステルダムのサーキュラー・エコノミーに対する革新的なアプローチが特に評価されました。
これ以降、世界の他の国々の都市がサーキュラー・エコノミーの導入に向けてアムステルダムに助言を求めてきています。
(参考・引用・オランダ在住サーキュラーエコノミー研究家安居昭博さんHP)
日本にもサーキュラーエコノミーの考え方が入ってきました。
アクセンチュアが120社以上の企業を分析し、サーキュラーエコノミーをビジネスにするためのアプローチを5つに分類しました。
1、再生型サプライ
繰り返し再生し続ける100%再生/リサイクルが可能な、あるいは生物分解が可能な原材料を用いる。
2、回収とリサイクル
これまで廃棄物と見なされてきたあらゆるものを、他の用途に活用することを前提とした生産/消費システムを構築する。
3、製品寿命の延長
製品を回収し保守と改良することで、寿命を延長し新たな価値を付与する。
4、シェアリング・プラットフォーム
Airbnb(エアビーアンドビー)やLyft(リフト)のようなビジネス・モデル。使用していない製品の貸し借り、共有、交換によって、より効率的な製品・サービスの利用を可能にする。
5、サービスとしての製品
顧客は所有せずに、利用に応じて支払う
(参考・引用・「無駄を富に変える:サーキュラーエコノミーで競争優位性を確立する」)
1、再生型サプライとは、例えば、オランダのスタートアップが開発した「Fairphone(フェアフォン)」というスマートフォン。
設計、デザインの段階からサーキュラーエコノミーが取り入れられ、廃棄物がまったく出ない仕組みになっています。
カメラ、ディスプレイなどを自分で交換できるうえ、壊れた部品は100%リユース、リサイクル可能です。
さらに、紛争の原因になっているレアメタルが使用されていないという、エシカルな面もあります。
2012年の発売以降13万台以上を売り上げ、予約待ちになるほど、ビジネスとしても非常に成功しています。
(出典・引用・Forbes Japan )
2、回収とリサイクルとは、着なくなったダウンジャケット、使わなくなった羽毛布団などを回収し、洗浄。新たな製品に生まれ変わるという「羽毛循環システム」を運営している「Green Down Project」があります。
食肉用の水鳥の命の尊重と、再生可能資源を捨てずに使うことによる自然環境への配慮がされ、回収後の解体、洗浄等を障がい者施設で行うことの障がい者就労支援、地域貢献までできるというプロジェクトです。
(出典:Green Down Project)
3、製品寿命の延長は、廃棄された製品の多くはまだ使用することが可能です。
これらの製品を回収し、修理やアップグレード、再製造、再販することによって新たな価値を与えることです。
4、シェアリング・プラットフォームは、シェアリングエコノミーというシステムが急成長しています。
例えば、2019年9月に日本で開催されたラグビーワールドカップで注目された民泊です。
岩手県釜石市で試合を行うが、宿泊施設が足りない。そこで、仲介企業「Airbnb」に仲介もらい、空き部屋を市民から提供してもらいました。
このビジネスモデルがシェアリングエコノミーです。
メルカリやウ―バーイーツなど市場規模は2021年までに約1,071億円まで拡大すると予測しています。
(詳しくは、カテゴリーウーマン「シェアリングエコノミーって何?」)
5、サービスとしての製品は、日本では以前からやっていたリース契約がそれにあたります。
オフィスのOA機器や、事務用品などリース会社が所有している物件を、借りて使用するというシステムです。
借り手は購入するよりも少額で済み、リース会社は借り手が使用した分だけ売上がたち、メンテナンスや修理保証などサービス提供の利益も出るので、両社にメリットがあります。
オランダの療機器メーカーのフィリップスは、以前は「新しいモデルを開発して買ってもらう」というビジネススタイルで、買い替え時には大量の廃棄物が発生していました。
そこでサーキュラーエコノミーの観点を取り入れ、リース契約によるメンテナンスなどのサービスの販売を始めました。
製品を長く使ってもらえるばかりでなく、使用後ほぼ100%処分されていた医療機器の90%が、再びフィリップスの元に戻り、その医療機器を再び別の病院にリースすることができます。さらに、その機器を新しい製品の開発に繋げて再活用できます。
新しい資源に頼らないビジネスが展開できるのです。
こうしたサーキュラーエコノミー事業は現在、フィリップスの全体収益のうち10%を支えるまでに成長しています。
さらにフィリップスは2018年ダボス会議でサーキュラーエコノミー優良企業賞を受賞しました。
(出典・Forbes Japan )
以上、5つのアプローチを持てば資源を無駄にせず、収益に繋がるとしています。
日本のメーカーも取り入れ始めています。
衛生用品メーカーのユニチャームでは、高齢化社会の紙おむつの廃棄量の増加を課題とし、使用済み紙おむつからパルプや高分子吸収ポリマーを取り出すリサイクル技術を開発しました。2020年度の製品化を予定しています。
シェアやリース事業を50年以上前から祖業としているオリックスは、意識せずともこのような収益構造を生み出し、利益を生み出し続けています。
キャノンは1990年、世界に先駆けて「トナーカートリッジ回収リサイクルプログラム」を開始。1996年には「インクカートリッジの回収リサイクル」をスタートしました。
地球環境保全と資源の有効活用を目的とし、回収した使用済みカートリッジは埋め立てることなく、すべてを資源として有効利用しています。
(参考:Canon HP 「環境への取り組み」)
ごみは分別して捨てても、コンビニや駅など外に置いてあるごみ箱が溢れて風に飛ばされたり、カラスにいたずらされたり、回収されるはずのものが川に流れ、そのまま海に流れてしまいます。
海に流れ込むプラスチックごみは世界で年間800万トン=スカイツリー222基分(出典:WWF/日本財団)
日本国内で原料再生されるプラスチックごみはほんの4%(出典・環境省)
日本で使われているレジ袋の数は1秒あたり967枚(出典:地球温暖化白書)
日本で一年間に使うレジ袋を作るために必要な石油量は約600,000kl(出典:地球温暖化白書)
人間が一週間に体内に摂取しているマイクロプラスチックの量はクレジットカード1枚分(出典:WWF)
地球の資源を使い果たし、生命の根源である海を汚し、私たちは今、危機的状況にいます。
社会はサーキュラーエコノミーによって、「消費するだけ」の経済を脱却し、限りある資源を循環させよう、無駄をなくそうという方向に変化しています。
そして、サーキュラーエコノミーはインターネットによって促進されるという期待がされています。
企業が生産活動の中で出る廃棄物を公開する、それを資源として使いたい企業が出る。といった具合にあらゆるデバイスがインターネットに繋がると、遊休資産の状況がリアルタイムで可視化されます。
無駄がなくなる可能性が低くなり、経済発展もできます。
サーキュラーエコノミーの考え方はこれからますます浸透していくでしょう。