リワークとは?プログラム詳細とその効果とは
2021/9/8
近年、気分障害などこころの病気を患い休職をする人が増えています。そのような方は治ってもまた職場に戻って働くことができるのか不安ですよね。
医療機関や地域の職業支援センターで復職や職場復帰を支援するプログラムを行っているのをご存知ですか?
その名もreturn to workの略語でリワーク。
リワークで行っている支援とその効果を解説します。
目次
リワークとは、うつ病や双極性障害である気分障害や統合失調症など主に精神疾患などのこころの病で休職をした人に対して行われる、職場復帰や仕事復帰を目指したリハビリテーションプログラムです。
こころの病の治療と聞くと薬物療法やカウンセリングをイメージしますが、リワークは治療とは異なり、あくまで復職を支援するプログラムとなっているのが特徴です。
医療機関や地域障害者職業センターなどで行われ、グループミーティングやオフィスワーク練習、ストレス対処法など、その人の特性や現状に合わせたさまざまなプログラムが用意されています。
また、事業主とも面談を行い、休職者が復職後も再度休職することのないよう双方にフォローアップを行っている施設も多く、継続した就労を目指しています。
一人で復職を試みると焦りや不安で前に進むことが難しい場合も、リワークなら医療スタッフや復職専門のスタッフに相談することができ、同じ悩みを持つ仲間とともに、心身のコンディションを整えながら安心した復職ができます。
実際、リワークを経験し復職したほうが再休職率やうつ病の再発率は下がります。
厚生労働省の令和2年労働安全衛生調査(実態調査)の事業者調査によると、1年間(令和元年11/1~令和2年10/31)にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業所の割合は 9.2%。
労働者の割合は1か月以上で 0.4%、退職した労働者の割合は 0.1%となっています。
同じく厚生労働省の令和2年個人調査は現在の仕事や職業生活で、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は 54.2%となっています。
その内容は「仕事の量」が 42.5%と最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」35.0%、「仕事の質」が 30.9%となっています。
下の表は2018年発表の厚生労働白書に掲載された「こころの病気の患者数の状況」です。
上のグラフの真ん中の水色、「気分障害など」が増えているのがよくわかります。
気分障害は「うつ病」と「双極性障害(躁うつ病)」の総称です。
こころの病気は種類も症状もさまざまです。
うつ病、双極性障害、依存症、強迫性障害、摂食障害、統合失調症、パニック障害、PTSDなどがあります。
いずれも脳の病気で、原因がわかっていない疾患が多いという特徴があります。
その症状と発症期間、生活への支障がどの程度あるかを医師が見極め診断します。
近年、新型コロナウィルス禍で当たり前だと思っていた生活スタイルが変わったことにより、不安や焦りからこころの病気を抱える人が増えています。
症状としては、「ニュースから目が離せず仕事や家事が手につかない」「手洗いや消毒を過剰に繰り返す」などの強迫性障害、コロナ禍による憂うつ感、攻撃的な怒り、過度な焦り、集中力低下、暴飲暴食など心身の不調の適応障害、憂うつ感による不眠や過眠症、思考力や集中力の減退や無断欠勤など、コロナ禍によるうつ病はコロナうつと言われています。
どんな人にとっても環境の変化は大きなストレスとなります。
コロナ禍における心身の不調は自身の異常ではなく、人間に備わったの正常な防御反応だということを頭に入れておきましょう。
(参考・厚生労働省こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトより)
現在、日本では推定120万人以上の人がうつ病や双極性障害で治療を受けています。
一生のうちに一度、これら気分障害に罹る割合である生涯有病率はうつ病が7.5%。
つまり、15人に1人はうつ病になる可能性があるわけです。
誰にでも起こりうる精神不調、それが「こころの風邪」といわれる要因かもしれません。
風邪を治すように精神不調も治せたら良いですが、再発率は50%ともいわれ厄介な病気です。
厚生労働省の令和2年個人調査で、仕事でストレスを感じている人は54.2%とあったように予備軍の人は多くいます。
ストレスがなく健康だった人が前触れもなく突然、気分障害になるということはありません。
軽いうつ症状がある予備軍の状態を経てからうつ病になります。
前述したこの54.2%、労働者の半数以上がこころの病気の予備軍である可能性があり、実に身近な病気です。
男女別では女性の方が男性よりも気分障害になりやすいことがわかっています。
女性はライフステージに応じて、月経、妊娠、出産、更年期など健康課題が訪れます。
女性特有の病気(子宮や乳がんなど)に注意が必要なうえ、うつ病などの気分障害になることもあります。
明らかな要因は女性ホルモンの分泌量の変化です。
そしてライフステージによる環境と役割の変化は、働く女性にとって未だ根強く残る男性優位の価値観によるストレス、女性にばかり肩の荷が重くなる役割の複雑さも要因だと指摘されています。会社では仕事、家庭では家事育児、介護など責任感ある役割が休まる時がなく訪れます。
女性が特に気をつけたい精神不調は以下になります。
・月経前症候群(PMS)
・月経前不快気分障害(PMDD)
・マタニティブルーズ
・産後うつ
・更年期うつ
いずれも些細なことでイライラしたり、気分が落ち込んだりする症状が挙げられます。
女性ホルモンの急激な変化により脳機能のバランスが崩れ、さらにそれを放置するとうつ病を発症してしまうことがあります。
ためらうことなく病院で相談しましょう。
近年、会社にとって従業員が健康であることは企業の利益率にも繋がるという観点が重要視され、従業員の健康増進を実践する「健康経営」が注目されています。
少子高齢化に伴う労働力不足はこれからますます深刻となることが予測され、従業員一人ひとりが健康でモチベーション高く働くことが欠かせません。
また、長時間労働や過労死、自殺などの問題を抱えた、いわゆるブラック企業は企業イメージを損なうリスクとなるだけではなく、従業員の離職や定着率の低さに繋がります。
大事な従業員のこころの健康を保つことは長期的な人材の確保、生産性の向上、企業イメージの向上に直結するのです。
そのため、リワークは健康保険、労働保険、企業内負担などで行われ休職者の負担が少なくなっています。
リワークはまず心と体の休養と治療を行い、規則正しい生活を送り基礎体力をつけ働くための土台を作ります。
その後、様々なプログラムで休職するに至った原因を知り、整理をすることにより、課題への対処方法を身につけることができます。
心と体の休養と治療を行った後は、生活習慣を整え基礎体力をつけ、疲労や気分の波を自身で整えることができるようにします。
朝、太陽の光を浴びること、夜しっかりと寝るという基本的習慣と、栄養ある食事、運動がメンタルヘルスに良い影響を与えます。
在宅勤務が増え、運動不足を感じている方は多いはず。朝や晩、散歩をするだけでも気持ちが整い、体の心地よい疲労を感じると思います。
リワークを行う臨床心理士など医療スタッフや保健福祉士などの復職専門のスタッフと相談しながら、休職した要因を探ります。
これは自分の辛い過去の体験を振り返り、その時の自分の思いを話すという自身にとって負荷のかかる作業となります。
しかし、原因を知ることは、ストレスへの対処方法を見つけ再発予防にも繋がるので重要です。
リワーク専門のスタッフならうまく導いてくれるので、安心して相談することができるでしょう。
生活リズムを整えた後は、職場の環境に寄せたプログラムを行います。
学習や読書をして集中する能力を高めたり、パソコンや書類整理などの個人作業、集団での対話などリワーク施設によって様々なプログラムがあります。
復職した際の実際の業務を想定し、あらかじめトレーニングすることで安心して復職することができます。
リワークを実施している施設は大まかに次の4つに分けられ、特徴がそれぞれ違うので自分に合ったところをみつけましょう。
病院の精神科や心療内科で行い、医療リワークと呼ばれます。
精神医療専門の医師とスタッフによる心理療法や再発防止のプログラムを医学的リハビリテーションとして受けることができるのが特徴です。
他のリワーク実施施設と比べ、こころの治療に重きを置き、再発予防を目的としたプログラムが軸となります。
費用は保険が適用され、自立支援医療制度を利用できるケースもあります。
地域障害者職業センターは各都道府県に設置されており、医療リワークと違い、こころの病を回復させるための治療ではなく復職に向け実践的なプログラムが多く行われます。
心療内科などすでに医療に通っている場合は主治医と相談し、事業主に対しても相談や支援を行い、休職者と事業主の双方で安心できる復職をサポートします。
費用は無料ですが、公務員は利用できません。
障がいのある方の就労を支援する事業所で民間企業やNPO法人、社会福祉法人などが運営しています。
障がい者手帳の有無ではなく、就労に支援を必要とするかで利用対象者か判断されます。
体の障がいだけでなく精神疾患、難病などの方の就労のノウハウに長けているので、その人の特性に合った支援を行うことができます。
企業内に医療機関や専門部署があると、職場復帰訓練制度としてリワークを行っている場合もあります。
企業の健康経営が重要視され、職場復帰支援は費用対効果からも明らかにメリットがあると取り組む企業が増えています。
取組事例が厚生労働省のHP「職場のメンタルヘルス対策の取組事例」に掲載されているのでご覧ください。
それでは実際にどのようなリワークプログラムが行われているのか見てみましょう。
自分の病気と症状を講義で学びます。
客観的に自身の精神状態を理解し把握することは、ストレス対処法を見つけることに繋がります。
職場で想定できるストレスに対して自分でどう対処していくか話し合い、学ぶプログラムです。
心理学による認知行動療法に基づき、自分が無意識のうちにこうあるべきと思っていることを、こうでなくてもいいと見方や捉え方を変えることでストレスの軽減を図ります。
対人コミュニケーションに苦手意識があり、社会に出ることに壁を感じている人に有効なトレーニングです。
グループで簡単なゲームをしたり、上司、同僚、部下と役割を振ってコミュニケーションの練習を行うロールプレイをし、コミュニケーションのコツを学びます。
復職時に必要とされる個人の能力の回復を目指すプログラムです。
パソコンを使った簡単な入力作業や書類作成、現場作業であれば前職に近い軽作業など、実践に近い作業を行い、集中力や持続力を養います。
こころの病は骨折の治療と違い完治の時期がはっきりとしない分、復職への焦りが出て症状が戻ってしまう時もあるかもしれません。
しかし、リワークなら医療や福祉の専門スタッフが側にいて伴走し、支えてくれます。
自身では話しにくいことも会社に伝え相談してくれるのもリワークの頼りになる点です。継続的な雇用を目指す会社にとっても、休職者の不安や意思を専門機関に相談ができるので、両社にとってリワークは有益となるでしょう。
精神的な不調が原因で休職する方が増えているなか、生活を整えながら復職へ向けて相談できるリワークの価値はますます高くなります。
一人で悩まず、まずは主治医や施設に相談してみましょう。