2020年は男性の育休元年になるー働き方改革は第3ステージへー
2020/2/20
小泉進次郎環境相に第1子が誕生し、今後3カ月間で育児のために計2週間程度仕事を休むと表明し、育児休暇を取得しました。
2019年に国内で生まれた日本人の赤ちゃんは86万4000人と、一気に90万人を大きく割り込みました。
どうして少子化が進んでいるのでしょうか。
晩婚化、核家族化など要因は色々ありますが、子どもを産み育てるのは1人で手一杯だから、2人、3人と育てるのは大変!という女性の皆さんも多いと思います。
働き方改革は、長時間労働の是正や女性の社会進出といった第1ステージから、生産性、モチベーションを高めるといった第2ステージへ。そして、家族がみんな幸せな社会を作るという第3ステージに入りました。
実はこの第3ステージこそ、私たちが本当に求めていた働き方改革であって、目指す姿と言えるでしょう。
女性にばかり目が向かっていた働き方改革。
第3ステージの要となるのは男性の育児休暇です!
目次
1985年に男女雇用機会均等法が成立しました。
30年前、25歳~29歳の女性の就業率が50%程度だったのに対し、今は80%以上の女性が就業しています。(総務省統計局調べ)
女性の高学歴化は、就業にプラスになり、働く女性が増えました。
結婚、出産をし、家庭を持つということ以外の選択肢の広がった女性は経済的にも自立。そして晩婚化、少子化が進み、生産年齢の人口(15歳~64歳)が減少しました。
第一次ベビーブームである1947年~1949年生まれの団塊世代、そして、その団塊ジュニア世代(1971年~1974年生まれ)は、現在、育児真っ最中ですが、あと数年で親の介護にあたります。
人口構造の変化で労働力が減少しているなか、今後さらに多くの人が何かしら抱えながら働かなくてはいけません。
働く側のニーズが多様化するのです。
そこで、政府は2016年内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置。
従業員満足を図りつつ、労働生産性を高めていくのが目的です。
戦後の高度経済成長期からずっと、働けば働くほど待遇が上がっていき、睡眠時間を削って、残業続きで働くことが美徳とされてきました。
「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
出典:政府HPより
「モーレツ社員」という言葉が生まれたのもこの時代です。
安倍晋三首相は働き方改革実現推進室の開所式で、
「モーレツ社員という考え方自体が否定される日本にしていきたい」と発言しました。
2016年は働き方改革元年となり、長時間労働の是正から第1ステージが始まりました。
長時間労働、休日出勤など当たり前の企業は社員の残業ありきで経営し、社員も残業代として賃金をもらえるというメリットがありました。
その状態だと、人手不足という事態に気がつきません。
突然、誰かが辞めることになり業務が回らず、そこで初めて人手不足に気がつくという話がよくあります。
その後、企業が取る行動は即戦力のある人材の採用です。
そういった人材は人件費が高く、かといって未経験者を雇うと教育する時間がなく、放置してしまう。そして、またすぐに辞めてしまう。
企業側も採用活動、人材教育と費用がかかる上、時間も取られてしまい、負のスパイラルに陥ってしまいます。
2016年から始まった働き方改革は、まず長時間労働の是正として、残業時間に上限を設ける、有給休暇を取得するよう働きかける、短時間勤務やフレックス制度など勤務制度の充実を図りました。
折しも、大手企業の過労死事件があり、各社の働き方改革の意識は急激に広まりました。
2018年6月、残業時間の上限規制や、有給休暇取得の義務化、同一労働・同一賃金の原則、高度プロフェッショナル制度の創設などが働き方改革関連法案として成立。
2019年4月1日に改正法が大企業から適用開始されました。
しかし、会社から言われるがままの働き方改革は、単に残業削減、有給休暇を取得しなさいという社員にとって受動的なものでした。
いわば、「働き方改革」ではなく、「働き方改善」です。
課題は、受動的ではない、つまり能動的な働き方がいかにできるかです。
これが働き方改革第2ステージです。
2017年のアメリカのコンサルティング会社の調査によると、日本の働き手のエンゲージメント(熱意、やる気、モチベーション)が、世界139カ国中、132位と最下位クラスでした。
「やる気のない社員の割合が、全体の70%」
「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員の割合は、24%」
にものぼるというデータが出ています。
なぜこれほど「熱意あふれる社員」の割合が低いのでしょうか?
日本は1960~80年代はコマンド&コントロール(指令と管理)という手法で、他の国も模倣する経営手段でした。
問題は(1980~2000年ごろに生まれた)ミレニアル世代が求めていることが全く違うことです。ミレニアル世代は自分の成長に非常に重きを置いています。
それ以上に問題なのは『不満をまき散らしている無気力な社員』の割合が24%と高いということです。
彼らは社員として価値が低いだけでなく周りに悪影響を及ぼします。
事故や製品の欠陥、顧客の喪失など会社にとって何か問題が起きる場合、多くはそういう人が関与しているでしょう。
改善方法は、原因になっている上司が変わることです。
上司の言ったことを、口答えせずに確実にやれば成功するというのが従来のやり方でした。
このマインドセットを変えないといけません。
上司と部下が一緒になってどう結果を出すか、部下をどうやって成長させていくかを考えることが上司の仕事になります。
部下の強みが何かを上司が理解することが重要です。
これまでは弱みを改善することに目を向けていましたが、得意でないことが強みに変わりません。
無気力な社員の半数は自分に合っていない仕事に就いています。
合った仕事に変えるだけで無気力な社員を半分に減らせるでしょう。
(引用参考・2017年5月26日付け日経新聞)
働き方改革第2ステージは、企業は労働時間や勤続年数ではなく、仕事の成果とスキルによる評価への改革。そして、働く人のニーズと価値感の多様化を認め、副業やテレワーク、フリーランスなど働き方の選択肢の広がりに目が向けられました。
ほんの数年前まで、残業ができる人が仕事ができる人、定時に帰る人は仕事ができない人、という区分けがされていた社会。
女性は結婚し育児をしながら働くのは両立が厳しく、専業主婦になるか、もしくは出産を先延ばしにするかの選択が迫られていました。
出産時期を延ばすということは、女性の出産期は終わりがあるので少子化になります。
未来の働き手が減るということは、年金の払い手も減り、ますます国の財政が厳しくなる・・・。
出産したいと思える時期に女性が、仕事と出産を天秤にかけることなく生める環境が必要です。
厚生労働省が同じ夫婦を11年間追跡し、調査したデータがあります。
夫の休日の家事・育児時間別に見た11年間の子どもの出生の状況の項目で、夫の休日の家事・育児時間が長くなるほど、第2子以降の生まれる割合が高くなるという傾向がわかりました。
出典・厚生労働省「第12回21世紀成年者縦断調査(平成14年成年者)の概況」
夫が長時間労働していると、休日も疲れて寝てばかりで家事・育児は休日も妻任せになってしまいます。
核家族が進んでいる社会で、妻が一人で家事・育児を担わなくてはいけない。これはワンオペ育児と呼ばれていますが、これは傍で見るより孤独で辛いことです。
育児休暇から復職した女性が感じることは
「やっと自分の時間が持てた」
「言葉が通じる相手と話すことができる」ということです。
予測のつかないことが次から次へと襲ってくる出産、育児は赤ちゃん中心の生活になり、自分の時間は皆無に等しくなります。
そんな育児の記憶は、2人目、3人目となると、またあの育児をやり直すのかという恐怖にすら感じると言います。
育児を母親一人で担うのではなく、父親も育児の当事者にさせなければいけません。
長時間労働は男性から家事、育児の時間を奪います。
つまり、女性の就労への配慮だけではなく、男性の長時間労働を廃止しなければ真の働き方改革ではありません。
働き方改革も第2ステージに入り、育児休暇、介護休暇、在宅勤務、有給休暇取得など制度を整えてきました。
しかし、その制度を使う人以外は、夜遅くまで残業しているという会社はたくさんあります。
制度に該当する人のみが使える制度では、周りを気にして使わない人も出てきたり、制度を使うことが特殊事例となってしまい、肩身が狭い思いをしてしまいます。
社内全員の働き方を変えることが重要です。
なかでも、遅れているのが男性の育児休暇の取得です。
育児・介護休業法では原則として、男女ともに子どもが1歳になるまで育休を取ることができるとされています。しかし、男性の育児休暇の取得率は2018年度は6.16%(厚生労働省調べ)
です。女性の82.2%とは大きな開きがあります。
政府は2002年に「2012年までに男性の育休取得率10%を達成する」ことを目指していましたが、目標には遠く及ばないまま、「17年までに10%」「20年までに13%」と目標を先送りしてきました。
なぜこれほどまでに男性は育児休暇を取得しないのでしょうか?
会社が男性の育児休暇制度を整えていても、周りに取得者がいない、取る雰囲気ではない、仕事に穴が開けられない、昇進、昇給のチャンスを逃しそう、育休取得中の収入減が家計に影響する等が理由として挙げられています。
休暇が取れるように、仕事の見える化、共有化を進めると同時に、マネジメント層へ研修をするなどが有効でしょう。
20代~40代女性の死因第1位を知っていますか?
癌でも、事故でもなく、第1位は自殺です。
これは産後鬱が原因と言われています。
女性は出産後2週間から1か月がホルモンバランスにより鬱になりやすく、パートナーはこの時期の母体の心身のフォローが大切です。
女性は出産や授乳で脳内物質ホルモン、オキシトニンが出ます。これは「愛情ホルモン」と呼ばれるものです。
男性は出産や授乳ができませんが、赤ちゃんを抱っこするとこのオキシトニンが出ます。
父親のこの時期の赤ちゃんとの触れ合いで、今後の育児の関わり方が変わってきます。
このオキシトニンは親子双方において、人に対する信頼感、誠実さが養われ、不安や心配を抑制し、ストレスを軽減させ、記憶力やコミュニケーション力を高めるという効果があります。
父親とのコミュニケーションは特に社会性が高い子に育ちやすいという傾向もあるそうです。
ですから、産後鬱になりやすい出産後2週間から1か月には特に、男性も育児休暇を取ることが重要です。
2020年1月、小泉環境相が育児休暇を取ることを宣言し、話題になりました。
国会審議や閣議に出席しつつ、短時間勤務やテレワーク(在宅勤務)を利用した、時間単位の育休です。少子化対策としても、働き方改革としても、そして家族のあり方を問い直すうえでも、意義ある政治決断と言えるでしょう。
しかも、公務をまる1日休む日もあれば時短勤務やテレワークの日もあるといった働き方は、育休の取得を迷っている父親の背中を押すでしょう。
小泉環境省が結婚を発表した翌月、イベントで心情を吐露しました。
「あの日以降、これで一人前だね、政治家としても厚みが増すね、と何人に言われたことか。結婚しないと”成人”と見なさない人がこれだけ多い日本は、ほんとうに硬い」
男性の閣僚としての育休取得は、結婚・出産が男の一人前の証しだとみる、ある世代以上の日本人の多くにとってはあたり前の空気、その「硬い岩盤」に穴をあけようとしての決断だったのかもしれません。
少子高齢化といった労働人口が減少している今、
・なるべく男女ともに働く
・なるべく短時間で働く
・なるべく多様な人材を揃える
以上が、これから企業が生きていくには不可欠です。
様々な人がそれぞれバックボーンを持ち、いろいろ制約があるなかで働いています。
企業は社員に合った制度を用意しましょう。
マネジメント層は部下の心理的安全性を作るよう、コミュニケーションを取るのが大切です。
例えば、「何月に子どもが産まれます」「今年は子どもの受験があります」「親の体調が悪い」など家庭のことを話しましょう。
そうすると、会社には育児休暇の制度があったな、介護休暇の制度があったなという具合に社員に制度の利用を促すことができます。
働きやすさが向上し、社員のモチベーションがUPし、帰属意識も高まります。
男性の育児休暇が取れない社内の空気は変えなくてはいけません。
それには今回の小泉環境相のように、トップが積極的に休暇を取得するのは非常に効果があるでしょう。
折しも、昨年末発表の世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で、日本は121位と、前年の110位より下降しました。
政治経済の両面でリーダー的立場の女性が増えていないことが理由です。
男性の育児休暇の取得は様々な効果が期待されます。
小泉環境相は育児休暇を取得することにより、「仕事の選択と集中と、育児のスキルアップで相乗効果が起きている」と話しています。
女性が働きやすい職場は男性も働きやすい。
これはこれから働き方改革を進めていく上で基本となる考えです。
家族みんなが働きやすい社会を作る働き方改革第3ステージが始まりました。
まずは2020年を男性の育休元年にしましょう。
日経新聞2020年1月18日
厚生労働省人口動態統計年報
朝日新聞デジタル2020年1月19日